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ユリイカ展舞台裏 vol.6 ひたすら営業の日々 1 2005.11.18  


 7月下旬『田中栞の古本教室』が印刷所から届いた。実物はB3判の紙に
両面印刷し八つ折にしたものなので、それをホチキスで中綴じし、天と小口
を切ると16ページの冊子になる。内容はユリイカ本の図版が多数入った読
みごたえのあるものだが、白黒なので書店に並べた時に目につきにくいので
はないかと感じた。
 製本・装幀のスペシャリストである岡田さんに「帯のようなものを付けら
れないでしょうか」と相談すると、翌日朱色の別紙の厚紙を変型表紙のよう
に本体の上に綴じた形を見せてくれて、一目見て「すてきーー」と感動する。
その気分のまま変型表紙につけるコピーは「古本って素敵……」とした。
 これでぐっと本らしくなったが、もっと遊んでもいいのではないか、と思
い田中さんに聞いてみた。返ってきたメールには「私が売る分には全部に折
紙豆本の付録を付けます。」とあった。さすが田中さん、サービス精神が徹
底している。しかし私に数百個の豆本を作る気力体力はない。どうしたもの
か。仙台ならではの付録というと……地図、そうだ古本マップを付けよう。
「それって、折紙豆本より大変なんじゃないの」とボソッとつぶやく夫の声
は無視して、早速古本屋リストを作り始めた。
 デザインはウェブ管理でお世話になっている聖子さんにお願いした。快諾
してくれて、すぐさま制作会議。といっても、おしゃべりがほとんどで、そ
うしているうちにいつもおもしろいことが浮かんでくるのだ。数日後聖子さ
んが、見やすくデザインされた原稿を作って持ってきてくれた。
 配付するものなので、データの不備がないように確認したり、紙屋さんに
行ったりしているうちに思った以上に時間がかかった。最後は宮城県古書組
合の理事長に見てもらい、「若い人は元気があるね〜〜。どんどんやって下
さい」と満面の笑顔で応援していただいて、ついに印刷となった。こうして
「田中栞の古本教室」火星の庭販売分には変型表紙と仙台古本マップつきと
なった。(現在も販売中)
 しかし出来上がっても製本&袋詰めをする時間がなかなか取れない、店頭
に出せないまま時間が経っていくのがもどかしく、未綴じのものをレジの脇
において置いて、欲しいと言われると、目の前でホチキス留めをして、カッ
ターで切って、という製本のデモンストレーションつきで販売していた。見
かねた友人たちが製本をかって出てくれて、2日で数百部の完成品ができた。
 よし!これで書店営業ができるぞーー。真夏の太陽が照りつけるなか、自
転車に乗って仙台市内の書店へと向かった。「昭和の戦後すぐに出版された
本の、ブックデザインについてのテキストなんですが……」「書肆ユリイカ
の本展に際したテキストを作りまして……」「著者は書肆ユリイカ本の蒐集
家で、『古本屋の女房』の作者の田中栞さんです」としゃべりまくり、訪ね
た書店十数店すべてに取り扱いしていただけることになった。皆さん、親切
で感動。同じ本屋稼業、共通するものを感じて会話をしていると親近感が湧
いてくる。 
 田中さんのご紹介で金港堂を訪ねると社長室へ案内されて、社長様と御面
会となった。金港堂は地元の老舗書店で、社長様は全国の書店会「書店新風
会」の会長をされている。田中さんがその会のカバー展に関わったことがあ
り、その縁でご紹介していただいた。「田中さんからお手紙をいただいてい
ました。ご商売はどうですか」と聞かれたので正直に「かなり厳しいですが、
今のところなんとかやっています」と答える。「お互いがんばりましょう」
と30部預かっていただいた。後日、お店に伺うと、レジの前にポップつき
で『田中栞の古本教室』が置かれていた。最終的に27部売っていただいた。
ありがたいこと。
 古本マップも思わぬ効果を得た。朝日新聞の記者がマップに興味を示して
取材に来店し、朝刊に写真付きで紹介してくれた。その日から数日間、「古
本マップがほしい」と電話がひっきりなしに入った。ときにはご自分の古本
の想い出話を切々と語る方もいた。「仙台一番町は、昔は道の両側が全部古
本屋だった」と。仙台市外からも郵送希望の電話がたくさん来た。「うちの
街に5軒あった古本屋は全部なくなってしまった。仙台は遠いけど……」。
「あなた、がんばってくださいね」。ここでもまた励まされる。
 マップを作るにあたって、文芸書を扱うところはすべて載せることにした。
だからブックオフも載っているし、組合に入っていないお店も載せている。
お客様にすればそれが一番便利だし、業界内の垣根は関係ない。そうしない
とマップにならないほど、個人経営の古本屋が減少しているという現実もあ
る。マップを作ってすでに2つの店が閉じた。 
 最後にもう一つ、今回の書店巡りで感じたこと。「新刊本屋にはなんと人
がいることか」この1割でも古本屋に来てくれればな〜〜〜。
        
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『田中栞の古本教室』定価:300円(本体286円)販売中です。
ご購入希望の方は代金300円+送料120円で郵送いたします。
お名前、ご住所をメールでお知らせ下さい。
メールアドレス:kasei@cafe.email.ne.jp
くわしくはこちらからどうぞ。
         
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