第13回 渡辺藤一の世界   バックナンバーはこちら >>>
 
 洋風も和風もたくみにデザインできる伊達得夫は、女性らしい美しい書物や、子供が喜びそうな可愛らしい本を作ることもできた。女流詩人の本は、堀内幸枝や岸田衿子の詩集(第5回、第11回を参照)など、お洒落な造本が数多くある。
 女性向けの本の中でも表紙装画で活躍しているのが渡辺藤一で、山本道子『みどりいろの羊たちと一人』(1960年、第7回を参照)、瀧口雅子『鋼鉄の足』増刷本(1960年)、山本道子『籠』(1961年)のいずれもジャケットを渡辺が描いている。
 渡辺は可愛らしい絵も得意で、ユリイカが発売元となって6号だけ発行された薄冊の月刊雑誌『プッペ』(1960年10月〜1961年3月)の表紙絵も渡辺が描いている。
 渡辺藤一は画家で、妻である立原えりかの本の挿画をよく手がけていた。ユリイカの出版物でも立原の童話集『木馬がのつた白い船』(1960年)は渡辺が表紙も挿画も描いている。
 ユリイカからはこの渡辺の詩画集『いつかの砂漠の物語』(1959年)も出版されているが、この本は実に凝ったつくりになっている。青い紙貼りの覆い帙に納められた本は、表紙がカラー刷りで、中には渡辺の絵画作品をカラー印刷した紙がわざわざ貼り込んである。詩とカットを印刷したページは2色刷で、あとがきには渡辺のポートレートを貼り込むという、手間のかかった1冊である。古書としては決して高価な本ではないが、このつくりのゆえに、私にとっては愛蔵のユリイカ本となっている。

 
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瀧口雅子『鋼鉄の足』増刷本


山本道子『籠』


『プッペ』1960年10月号表紙

『プッペ』1960年12月号表紙


『プッペ』1961年3月号表紙


渡辺藤一『いつかの砂漠の物語』覆い帙と本


渡辺藤一『いつかの砂漠の物語』本文


渡辺藤一『いつかの砂漠の物語』本文


渡辺藤一『いつかの砂漠の物語』あとがき
 
バックナンバー
     2005.09.18  第1回 ふたつの『ユリイカ』
     2005.09.26  第2回 『ユリイカ』の表紙絵
     2005.09.28  第3回 有名画家の展覧会
     2005.10.02  第4回 洋書にしか見えないブックデザイン
     2005.10.05  第5回 継ぎ表紙の妙技
     2005.10.05  第6回 赤と黒
     2005.10.05  第7回 鮮やかな配色
     2005.10.16  第8回 切り絵と切り紙文字
     2005.10.26  第9回 たれつきジャケット
     2005.10.31  第10回 細い帯を斜めに掛ける
     2005.10.31  第11回 覆い帙
     2005.11.01  第12回 和風のブックデザイン
     2005.11.04  第13回 渡辺藤一の世界
     2005.11.04  第14回 増刷と異装
     2005.11.05  第15回 全集と双書のデザイン
     2005.11.06  第16回 判型の効果
 

 

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