第6回 赤と黒   バックナンバーはこちら >>>
 
 継ぎ表紙で赤と黒のものが多いだけでなく、書肆ユリイカの本にはこの2色だけの配色によるブックデザインが多い。
 渋沢孝輔『場面』(1959年)の表紙は、太い罫とゴシック文字による単純な意匠。山本道子『籠』(1961年)の表紙は、枡型本のひらの中央に一字だけのタイトルが配置される。加藤八千代『愛と詩の歌』(1955年)は、黒地に白抜き印刷した紙ラベルを、真っ赤なクロスのひらと背に貼ってある。
 彌富榮恒『南国雪』(1952年)は、珍しい文庫サイズの本だ。白い貼函に入っているが、本は黒い紙装のひらに真っ赤な箔でタイトルが捺されている。
 この配色のデザインで最も印象深いのが宇都木淳『夜の庭』(1958年)である。渋い色合いのジャケットを剥いだ時、その下から現れる黒地に赤の表紙は鮮烈というほかない。一見地味な外装の中に隠されている、こんなにも美しい表紙。外装重視の現代書籍デザインとは発想がまったく異なることに、驚かないではいられない。
 
 
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渋沢孝輔『場面』表紙


山本道子『籠』表紙


加藤八千代『愛と詩の歌』表紙


彌富榮恒『南国雪』

 

宇都木淳『夜の庭』ジャケット
 

宇都木淳『夜の庭』表紙
 
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     2005.09.18  第1回 ふたつの『ユリイカ』
     2005.09.26  第2回 『ユリイカ』の表紙絵
     2005.09.28  第3回 有名画家の展覧会
     2005.10.02  第4回 洋書にしか見えないブックデザイン
     2005.10.05  第5回 継ぎ表紙の妙技
     2005.10.05  第6回 赤と黒
     2005.10.05  第7回 鮮やかな配色
     2005.10.16  第8回 切り絵と切り紙文字
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