第3回 有名画家の展覧会   バックナンバーはこちら >>>
 
 書肆ユリイカが発行していた雑誌『ユリイカ』の表紙絵に、コダール(1958年1月)やクレー(同年8月)、ヴオチエ(同年10月)の作品が登場したことは前回記したが、雑誌だけでなく、単行本の表紙も、まるで海外有名画家たちの展覧会のように多彩だ。
 最初の出版物である原口統三の『二十歳のエチュード』(1948年)のジャケットには、ピカソの「フランコの嘘」が使われていたが、これは本書の元版である前田出版社本ですでに見返しに印刷されており、伊達が好んでいたことが窺える。ちなみに書肆ユリイカで2冊目に出版された本は原口統三の『死人覚え書』(1948年)で、このジャケットには岡本太郎の絵が使われた。
 以来、書肆ユリイカの本の表紙やジャケットには、さりげなく名画が登場している。谷口謙『死』(1956年)の表紙はルオー。大岡信『詩人の設計図』(1958年)のジャケットはクレー、表紙はダリ。『シュルレアリスム辞典』(1958年)のジャケットは、表がミロで裏がダリ、それを真鍋博がレイアウトしている。
 一番すごいのは「現代試論シリーズ」(ユリイカ新書)と銘打たれた新書判のジャケットで、大岡信『現代詩試論』はピカソ「牧神」、中村稔『宮沢賢治』はクレー「幽谷の道化」、関根弘『狼がきた』はピカソ「ゲルニカ」、杉本春生『抒情の周辺』(以上4点、いずれも1955年)はクレー「船乗りシンドバットのオペラ」というラインナップで、4冊並べると壮観だ。
 書肆ユリイカでは詩と画をコラボレーションしての「詩画集」も何冊か出版しており、駒井哲郎や伊原通夫、川上澄生といったアーティストの作品をメインに本にしてもいる。しかしこうした「著者」としてではなく、外装の意匠として有名画家の作品を使ってしまうのも伊達の得意技だったようだ。
 神保町で仕事をしていた伊達が、昼休みなどに古書店で画集や洋書を好んでチェックしていたという話を田鶴子夫人から聞いたことがある。今は著作権について厳しい時代になってしまったが、こうしてインスピレーションを受けた作品を拝借して、自在に書物を装う伊達得夫の装丁妙技は実に冴えている。
 
 
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谷口謙『死』ジャケット

大岡信『詩人の設計図』ジャケット


大岡信『詩人の設計図』表紙


『シュルレアリスム辞典』ジャケットの表

『シュルレアリスム辞典』ジャケットの裏

 

大岡信『現代詩試論』ジャケット
 

中村稔『宮沢賢治』ジャケット

 

関根弘『狼がきた』ジャケット
 

杉本春生『抒情の周辺』ジャケット
 
バックナンバー
     2005.09.18  第1回 ふたつの『ユリイカ』
     2005.09.26  第2回 『ユリイカ』の表紙絵
     2005.09.28  第3回 有名画家の展覧会
     2005.10.02  第4回 洋書にしか見えないブックデザイン
     2005.10.05  第5回 継ぎ表紙の妙技
     2005.10.05  第6回 赤と黒
     2005.10.05  第7回 鮮やかな配色
     2005.10.16  第8回 切り絵と切り紙文字
     2005.10.26  第9回 たれつきジャケット
     2005.10.31  第10回 細い帯を斜めに掛ける
     2005.10.31  第11回 覆い帙
     2005.11.01  第12回 和風のブックデザイン
     2005.11.04  第13回 渡辺藤一の世界
     2005.11.04  第14回 増刷と異装
     2005.11.05  第15回 全集と双書のデザイン
     2005.11.06  第16回 判型の効果
 

 

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